ネニーおばちゃんの朝ご飯
ネニーおばちゃんの朝ご飯
翌日は快晴。朝ご飯は８時半からなので、お洗濯をしたり、窓の外から旧市街を眺めたりしました。私の服が、ドブロヴニクの景色の一部になるわけで、ちょっと感動。
私の部屋は３階でしたが、朝ご飯は４階に時間通りに来てね、と言われていましたた。朝以外はがっちり扉が閉まっていて、秘密の部屋みたいになっているので、どうなっているのかすこしどきどきしていた。
いよいよ時間が来たので、４階の扉を開けてみました。中は明るかったです。そんなに広くはないけど、全面ガラス張りで、旧市街がずっと見渡せます。テーブルが３つ並んでいて、ネニーおばちゃんが、朝ご飯を用意してくれていた。奥のテーブルには、どうやら旦那さんらしき人の良さそうなおじさんが新聞を読んでいた。私は窓際の明るい席に座った。
「コーヒーと紅茶どっちがいい？ こっちにパンのジャムがあるし、シリアルもヨーグルトもあるわよー、最後にケーキもあるからね」
と、おばちゃんは上機嫌で言いました。テーブルの上はパンが山盛り。オレンジジュースも飲み放題。できたてのオムレツもつくってくれました。これもねー、おいしかったですよ。本当におなかいっぱい。
しかも窓越しには旧市街が望めるわけで。これは５つ☆ホテルもびっくり。まぁ、設備の面ではホテルに劣るところもあるかもしれないけど。
すごいおいしかったよ、おなかいっぱい、とおばちゃんに伝えると、ケーキもあるから食べなさい、といいます。
「いやいや、もうおなかいっぱいだから」
と、私がチェスチャー込みで言いますと、
「Take it easy. It is a very small!」
と、おばちゃんはケーキを私のお皿に載せてくれました。いや、おいしかったですよ。でも、おばちゃんが横にでっかい理由がわかった気がしました。
窓から見たスルジ山
朝からおなかいっぱい御飯をたべて、次なる目標は、スルジ山を上ることでした。
スルジ山は、ドブロヴニク旧市街の北向かいにある山で、戦争の時にはユーゴスラビア軍がこの山のてっぺんからボコボコに攻撃を仕掛けたということで有名です。
戦争前は、旧市街を見渡せる絶好のポイントとして知られ、ケーブルカーもあったらしいけど、今は哀れな姿のままとなって放置されています。
去年ドブロヴニクに訪れたとき、是非とも上りたかったのですが、時間切れでアウト。なんとしても上ってみたいポイントでした。
タクシーでも２００クーナぐらいで連れて行ってくれるそうですが、せっかくなので歩いて上ってみることにしました。
登山の入り口はかなりわかりづらいです。
旧市街をピレ門から出て、ひたすら北向きに坂を上っていきます。住宅街を抜けていくのですが、ここは沖縄じゃないのか！？というような景色なのです。
それにしても、このあたりの家は、皆建物が似たような感じで、町並みがとてもきれい。白い壁に、朱色の屋根。門扉は緑色。玄関口の表札も同じような青いプレートが張ってあって、美しさのバランスを崩さないかんじ。
旧市街のみならず、新市街もとても美しい。日本の町並みもこれぐらい綺麗ならねぇ、なんて思っているうちに、ようやく山の入り口にたどりつきました。
スルジ山入り口
正直、地球の歩き方の地図だと迷ってしまうかもしれません。ロンプラの地図はかなり詳しいので何とかなったけど。もし道に迷ったら、その辺に歩いている人に聞いてみるといいと思います。きっと親切に教えてくれるだろうから。
こんな道を最初は進むわけです
というわけで、ひたすら山登りです。
そんなに急な道ではないのですが、やっぱり坂は坂。なかなかきつい。
おまけに、４月の、しかも午前中だというのに、この暑さはいったい何なんだ！？
昨日が結構暑かったので、半袖に軽く上着を着ていたのですが、上着は単なる荷物になってしまいました。
しかし、景色は最高。
糸杉の間から時折見える旧市街は、まさにアドリア海の真珠。 バーナード・ショーは嘘をついていない。
糸杉の間から見える旧市街
さらに進むと、この木立もなくなりました。荒野のごとく白い岩肌があらわになった道が続く。ごろごろと石が転がる中に、ヒースやエニシダの黄色い花が咲いているのが目に鮮やかでした。
人はあまりいなかったです。ときおり、地元の人と思われるおじさんとすれ違う程度でした。鳥の鳴き声が聞こえる以外は本当に静かでした。
くねくねとした道は続きます。この道の外はあまり歩かない方がいいようです。なんでも、ユーゴ軍が、このあたりに地雷をいっぱい埋めたらしいから。もちろん、歩道は撤去されているらしいし、観光客も多いこの辺はもう大丈夫らしいけど、念には念をいれて。
上を見上げると、遙か彼方に、壊れたケーブルカーの駅が見えました。道の曲がり角に、朽ち果てた十字架が、荒野にぽつんと横たわっていました。
スルジ山にはあんまり木も生えてないので、めちゃくちゃ景色がいいです。
人もいないので、ほんとに気持ちいい。
ただ、暑いので、水は買って持っていった方がいいと思います。
のんびり上って、ピレ門からスタートして一時間ぐらい。
私を山頂でお出迎えしてくれたのは、なぜか、牛。
放し飼い……？
山頂は、もう、言葉も出ないくらいすばらしい景色。１８０度ドブロヴニクが見下ろせます。
山登りは結構大変でしたけど、この景色を見るために来たんだなあ、とおもうと、疲れも消えます。
人はあまりいなかったけど、私と同じように山を登ってきたらしい父子が写真を撮っていたので、お互いに撮りあいっこしました。
ロープフェイの廃墟
脇をみると、ぼろぼろの建物があります。これは、セルビア軍にぼこぼこにされたというロープウェイの駅の残骸。実に容赦ない壊れ方をしています。
この裏には、セルビア軍の攻撃で一番最初になくなったという方のお墓もありました。
こんなに綺麗なところを攻撃するとき、彼らは躊躇しなかったのでしょうか。崩壊すれば、二度と戻らない、世界遺産、アドリア海の真珠、ドブロヴニクを。
ちなみに、戦後１５年を経て、ようやくここに再びロープウェイを作る予定ができたらしく、この駅はまもなく撤去されるそうです。ドブロヴニクからは、もう戦争の跡は消えつつあるのかもしれません。
教会のステンドグラス
スルジ山から戻って、旧市街の宿に戻ると、ネニーおばちゃんが、お帰り、と顔を出してくれました。
山を登ってきたんだよ、というと、眺めよかったでしょ、あそこは夕方か早朝に上らないと暑いのよ、と教えてくれました。でも夕暮れの暗くなる頃にあそこを上るのは結構危ないんでないかなあ。
あまりおなかも空いていないので、ちょっと休憩して旧市街の散歩に出かけました。
旧市街はそれほど広くないのですが、どこを歩いても絵になるすばらしい街です。歩いているお姉さんたちはみんな美人だし、カフェに座り込んで人間観察をしているだけでも一時間ぐらい過ごせてしまうのです。
あとは、ドミニコ修道会を見に行ったり、民族博物館とかに行ったりしました。
民族博物館展示
あちこちにある教会巡りもなかなか楽しいです。
大聖堂には、いろいろなものが奉ってあったりします。なかには、手のひらや足の形をした黄金の模型みたいなのがあるのですが、あれが何かご存じでしょうか。
あのなかには、「聖遺物」が入っているのです。
キリスト教は一神教で、神様は唯一のものなのですが、それとは別に、「聖人」という人々がいます。徳が高く、人格高潔で、生き方において他の人物の模範となるような人物のことをさして、聖人は神のそばでとりなしを行うことで人々の祈りを聞き入れ、神と人間の媒介としての役割を担うとみなされています。マリア様だって、「聖人」。神様と取りなしをしてくれるわけだから、人々は聖人を敬う。で、聖遺物、とは、キリストや、聖人の遺骨や、それにまつわるものをいうわけです。
日本でも仏舎利（お釈迦様の骨）がお寺にあることもあるから、それとちょっと似ているなあ、なんて思ったりしました。
旧市街にはセルビア正教会もあったりします。中をのぞいてみたけど、人もあまりいませんでした。クロアチアの人がそれをどう思っているのかはよくわかりません。歴史的建造物として残してあるのでしょうか。
ちなみに、中世では、ドブロヴニクの市民になるには、カトリック教徒でなければならなかったようです。ドブロヴニクは、中世にアドリア海の東西交易をになったので、たくさんの人が出入りした。オスマントルコ帝国の人も来ただろうし、後背地のセルビアからも来たでしょう。そのなかで、ドブロヴニクの市民であるという共通のアイデンティティーを保つためにも、カトリック教徒であることが求められたといいます。
旧市街を廻りながら、そんなことを考えました。
ロブリエナッツ要塞
だんだん夕方が近づいてきた頃、アイスを食べながら、ロブリエナッツ要塞に向かいました。
ここ、すっごく道がわかりづらいんだけど、旧市街を見渡す絶好のポイント。とくに、夕方は、光の方向が西から旧市街に照りつける感じになるので、写真撮る隠れたポイントですよ。
人も少ない要塞の入り口には、これまた人の良さそうなおじさんがいて、とても良いことを教えてくれました。
もしも、城壁を廻っていたなら、そのチケットを見せることで、要塞に入るのがタダになる。また、さきに要塞に行った場合、要塞でもらったチケットを城壁巡りのお金を払うときに渡すと、２０Ｋｎ割引してくれるのです。
旧市街は人が多いけど、ここは人もまばらで、とてもゆっくりできます。通りかかりました外国人と写真を撮りあいっこしたりしました。
城壁から見た景色
つーことで、もう一回城壁巡り。
夕日に照らされて、昨日とはまた違った美しさ。
この時点で７時すぎているのですが、サマータイムのせいか、まだまだ明るいのです。
こんな路地の上も通ります。
屋上でバーベキューをやっている人たちがいて、手を振ってくれました。
見上げればたくさんのツバメが空を飛び交っていて、本当に夢のような城壁巡りでした。
スカンピのグリル
夜ゴハンはネニーおばちゃんに教えてもらったレストランに行くことにしました。
たしか、マルコ・ポーロっていう名前でしたと思います。レストラン通りの一番端で、こじんまりとしたお店。
ちょうど聖ブラホ教会の方で合唱をしているのが聞こえて、とてもいい雰囲気。生演奏つきで晩ご飯ですよ。最高。
お店に顔をのぞかせると、おじさんが出てきて、外の席で食べれるよ、と案内してくれました。
このおじさんがすんごいいい人でした。おじさん曰く、このお店はローカルで、私もここでもう４０年この仕事がをしてるんだよ、と言ってた。７０歳、プロ中のプロなのさ、といってたけど、５０歳くらいに見えたなあ。
まずはタコサラダ。これはカメニツェのほうがおいしかったかな。あとは、スカンピのグリルと、スカンピのホワイトリゾットを頼みました。
おじさんはお皿にリゾットとスカンピを取り分けてくれて、スカンピの煮汁をリゾットにかけてくれました。これがダルマチアスタイルなんだよ、食べて食べてってなことを言ってくれました。
んで、これけど、激ウマ。マジでおいしいです。スカンピは鍋一杯入っていて、もう手づかみでがつがつ食べまくり。
おいしいよー、ドブロドブローと連発しまくっていたら、おじさんもちょっとうれしそうで、食後にトラヴァリッツというラキヤをサービスしてくれました。
トラヴァリッツ
これがですね、蒸留酒にハーブをつけ込んだやつで、めちゃくちゃ強いんですな。もともとはお薬なんだよ、みたいなこともおじさんは教えてくれました。
で、これにハウスワイン付きで、２９８Ｋｎ。二人でこの値段なら激安だな。
そんなわけで、とにかくもう、大満足の夜御飯でした。
夜のドゥブロヴニク
ゴハンを食べ終わるともう真っ暗でしたけど、もう一カ所行きたいところがありました。
それは、海の見えるカフェ、ＢＵＺＡ．
城壁に飛び出る岩場に乗るようにあり、イグナチオ教会の裏あたりにあります。昼間に場所は確認していたのですが、夜もやっているらしいので、ぜひぜひ行ってみたかったのです。
人通りもない裏道を抜けて、小さな扉を抜けると、視界が開けた。夜空には、明るい月が浮かんでいた。その下に真っ暗な海。月の光を受けて、ちらちらと波がさざめく様子は、夢の中にでもいるようでした。
地上の楽園、ドブロヴニク。
アドリア海のほとりの、ため息が出るくらい美しい街。
ここに来て良かったなぁ、と思いながら、私はドブロブニク最後の夜を過ごしました。